Unityソリューションカンファレンス2015(以下、USC2015)のレポート第3弾は、株式会社ディックスの田村尚希氏による「BIM×ゲームエンジンが拓く未来」という講演でした。
講演者の田村氏は、大学で建築関係を専攻し、大学院では3DCGをやったあとにゲーム業界に就職されたそうです。ゲーム業界でしばらく働いた後、現在の株式会社ディックスに入社し建築業界に戻ってこられたそうです。
そんな経歴の持ち主である田村氏だからこそ感じる、昨今のゲーム業界の素晴らしい技術を
「何故、ゲームの技術をゲームにしか使わないのだろうか?」
というところから講演が始まります。
以下では、そんな田中氏の「BIM×ゲームエンジンが開く未来」という講演について書いていきます。
田村氏の所属する
株式会社ディックス(以下、ディックス)は愛知県名古屋市大須に本社を構える創業25年の建築系企業である。主な業務は施工図・仮設図の作図業務で、東海地方ではCAD作図のパイオニアらしい。
そんなディックスが2014年に情報系の新規事業を創設したことがきっかけで、田村氏は先述の「何故、ゲームの技術をゲームにしか使わないのだろうか?」という思いから、建築とゲームの組み合わせにチャレンジすることにしたそうです。
そんなときに目をつけたのが、最近少しずつ利用される機会が増えているBIM(Building Information Modeling)。既存顧客もBIMに取り組み始めていたこともあり、これをテーマに取り組むことを決定したらしい。
BIMについて
今回のUSC2015にいって驚いたのは、建築関係の参加者が非常に多かったことです。建築業界の方なら知っているのかもしれませんが、正直私は「BIM?なにそれ、おいしいの?」という状態でした。
BIMとは
Building
Information
Modeling の略で、AUTODESK のページの「
BIMとは」のページには以下のように書かれています。
BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称で、コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースを、建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューションであり、また、それにより変化する建築の新しいワークフローです。
素人の自分の理解としては、2次元に図面を書く既存の方法とは異なり、3D空間上に3Dモデルを配置していって、対象となる建物を組み上げていき、さらにそのモデル1つ1つに仕上種別、構造種別、建具種別などの様々な属性を付加していくことで、建築に必要なデータがすべての1つの場所に揃っている状態を作れるというものです。
イメージとしてはこんな感じ。
田村氏はBIMデータを次のように表現していました。
BIMデータ=建物の統合データベース
こういったことからも、BIMは設計のツールとしてだけではなく、施工・維持管理のツールとしても活用されています。しかも、このBIMデータから必要に応じて図面を取り出すことも可能だそうです。
これまでは2次元図面を別々に作成して、それらを頭の中で統合していたらしいので画期的ですね!
すごい時代になったよなぁ。
BIMツール
BIMを実現するためのツールとして、現在以下の2つのツールが2強だそうです。
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Autodesk Revit |
Graphisoft ArchCAD |
BIMを使えば建築関係の現場がすごく便利になりそう!と感じたのですが、BIMツールには以下の課題あるそうです。
- BIMソフトウェアはあくまで設計ツールである
- 機能と操作が非常に複雑
- プレゼンテーションに向いてない
これらの問題をクリアするためにゲームエンジンを利用できるのではないか、そして、この課題がクリアできればBIMの可能性を大きく広げられると考えたそうです。
実際に、会場ではRevitの完成した3Dモデルのプレビュー画面が表示されていましたが、マウスのドラッグに対する反応がものすごく遅かったりして、正直あの状態で使い続けることを考えるとかなりのストレスだろうなぁと思いました。
これがサクサク動くようになって、簡単な操作でエンドユーザーさんが使えるようになれば非常に有効だろうなと素人ながらに感じました。
Vizit Theater
会場では「Vizit Theater」というツールのDEMOが行なわれました。これは、あるマンションの販売支援に実際に使用したアプリケーションらしいです。
どんなアプリケーションかというと、BIMツールを使って作成したマンションの3Dモデル内をタブレットやスマホを操作することで自由に見て回ることができるというものです。
さらに、これをVRヘッドマウントディスプレイで見ればより一層、その場に居る感覚が味わえるはずです。
実際にマンションに行かなくても、ましてやまだ完成していなくても、建物を内見することができるようになります。
これは新規購入するお客様はすごく安心できますよね!
そんな「Vizit Theater」ですが、ゲームエンジンであるUnityで作られており、Revitで作成したBIMデータをUnityに取り込んでいるそうです。
ここではRevitが採用されていますが、これはとくに深い意味があるわけではなく、たまたまお客さんがRevitを使用していたのでRevitを採用したということのようです。
「Vizit Theater」制作にあたりシステム要件としては以下の3つの項目があったそうです。
- [高効率]: 短時間&人手が掛からない
- [高品質]: 形状・マテリアルに欠損がない
- [高パフォーマンス]: 大規模データでもサクサク
ゲームエンジンを利用することで、これらの要件をクリアできると考えられたそうです。
コンテンツ作成手順
コンテンツ作成のフローは以下のたった4手順でいいらしい。
- Revitモデリング
- Unityセットアップ
- GIベイク
- シーンセッティング
これらの手順のうち、「1.Revitモデリング」はディックスさんの顧客が担当する行程なので特に手間はなく、「3.GIベイク」と「4.シーンセッティング」に関しては、カメラの制御だったり、オブジェクトの当たり判定の設定等を行う程度でそれほど特殊なことはしていないそうです。
やはり全行程の中で一番苦労して、いろいろと試行錯誤したのが「2.Unityセットアップ」のRevitデータをUnityに取り込むところだそうです。
RevitデータをUnityに取り込む
前述の通り、RevitデータをUnityに取り込むところが最も苦労したところらしいですが、実際に既存の方法などを幾つか試したそうですが、なかなかうまくいかなったようです。
そこで、田村氏はいくつかの既存の手法を試したみたそうです。
① Revit ⇒ 3ds Max ⇒ Unity
この手法の問題点は以下のような問題があり却下
② Revit ⇒ 市販FBX Exporter ⇒ Unity
この手法も問題点があり、それは以下のように言われおり、これも不採用。
- マテリアル&UVが全部来ない
- オブジェクトがバラバラになり、低パフォーマンス
③ Revit ⇒ 独自フォーマット ⇒ FBX ⇒ Unity
既存の手法を試したもののうまくいかず、結局独自フォーマットを間にかますことでこれらの問題を解決したそうです。
具体的に独自フォーマットがどういったものかとういうと、以下のような項目を実現しているそうです。
- 必要なマテリアルに独自対応
- パフォーマンス確保のため、適切にデータをマージ
- 照明データも同時に出力
- 日本語に対応するために自動リネーム
これにより目標を達成したそうですが、せっかく独自フォーマットで書き出せるようにしたのであれば、このフォーマットで表示できる独自ビューアがあればもっと使いやすいのではないかと考えて、これを実現するRevit専用の外部ビューアを作成されたそうです。
やはり、そこには「手軽にRevitデータを見たい」というニーズが存在しているようです。
まとめ
ディックスさんとしては、今後もゲームの技術を色々な分野に応用することを考えているそうですが、現在はBIMに注目して取り組んでいるらしい。
今後はRevitからUnityへの変換フローをより効率的に行えるように取り組みを継続していきたいそうです。