私が聞いてきた講演の一覧については以前の記事 Unityソリューションカンファレンス2015 レポート① を参照してください。
では、基調講演から書いていってみます。なお、講演者の敬称を省略させていただいていることをご容赦ください。
基調講演
昨年も参加したUSC2014からちょうど1年後に開催されたUSC2015ですが、この1年間でのUnityとUnityを取り巻く環境は目を見張るスピードで進化しています。
基調講演では、Unityテクノロジーズジャパンの大前氏と伊藤氏による「Unity最新情報と産業向け機能の紹介」、バーチャルリアリティ(以下、VR)の火付け役にもなったOculus Riftを製造/販売しているOculus社の池田氏による「OculusによるVRの今とこれから」、また、そのVRを手軽に体験できるようにしたハコスコの藤井氏による「ハコスコによるVRビジネスの可能性」の3つの項目で講演が行われました。
1.Unity最新情報と産業向け機能の紹介
大前広樹
<ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社>
伊藤周
<ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社>
この講演では、当日発表されたばかりのUnityに関する最新情報や産業向けの機能などが紹介されました。
Unity最新情報
- 全世界の利用者が500万人を突破した
Graphics
- グラッフィク周りがすんごい強化された
- 物理ベースレンダリング
- 物理ベースレンダリングそのものについてはこちらのCygameさんのCygames Engineers' Blogで詳し解説されています。
- リアルタイムGI(大域照明:グローバルイルミネーション)
- SSRR(スクリーンスペースリアルタイムリフレクション)
- Unity5.3で追加される予定だったが、遅れておりUnity5.4でに伸ばされた
- これらによってUnityの表現力が格段にアップしている
DEMO
上記DEMOアプリはこちらからダウンロード可能。
このDEMOには購入したアセットが多数使用されているのでリリースはされていないそうです。オリジナルのSceneが欲しい方は、サードパーティのアセットストア「Evermotion Store」から購入する必要があります。
UIツールの強化
- Unity GUI (uGUI)がより洗練されてきて、大体のものが作れるようになった
- DEMOではパイチャートやカスタマイズされたスライダーなどが表示されていた
- このDEMOの画像がアセットストアにある「UI Builder」の画面と似ていた気がするけど気のせい?


サービスの強化
- Analytics
- Cloud Build
- クラウド上でビルドしてくれる
- プロジェクトの更新を検知して自動でビルドする
- アプリケーションが更新されると、任意のデバイスに自動で配信までしてくれる
Industry
- Alembic Importer
- Alembicファイルがそのまま読み込めるようになった
- Unity CAD Importer
- CADファイルがそのまま読み込めるようになった
- これまでは、CADから書き出したIGES形式のファイルをFBXに変換してからUnityに取り込んでいた
- Unity CAD Importer により、IGES形式のファイルを直接Unity読み込めるようになった
- 別のセッションで詳しく説明された
2.OculusによるVRの今とこれから
池田輝和
<Oculus>
技術的な話というよりは、Oculusが目指しているところと、これからどうなって行こうとしているという話がされた。
「あらゆる体験を、どこでも、誰とでも。」
Oculus 社のミッション。
「今後5年、10年の長期のスパンでVRを広め、数十億人がバーチャル空間にアクセスして、あらゆる体験をどこでも誰とでも体験できる」世界をつくることを目指しているらしい。
Oculus社が提供している『Rift』や『Gear VR』は、このミッションを達成するためのデバイスである。
「Rift」について
- 「Oculus Rift」ではなく「Rift」が製品名。「Oculus社」の「Rift」という製品。
- 来年1月〜3月に製品版を出荷できるように動いている
- 製品版が出るという話はあったけど、ほんまに出るの?と思ってたけど、今回あらためて第1四半期での出荷に向けて動いていると聞いて安心した。
- Oculus社は、快適なVR体験を提供するということを非常に大切にしている
- 快適でなければ、わざわざVR空間に入ろうと思わないと考えている
- 「Rift」はその快適な体験を実現するためのデバイス
- 3年間にわたる開発の中でようやく快適な体験を一般の方々に届けられるレベルに達したと考えリリースすることになった
「Gear VR」について
- Gear VRとは
- Galaxyシリーズのスマートフォンをはめて使うモバイル向けのVRデバイス
- 11月20日に米国で先行して発売
- 日本でも年内発売に向けて動いている
Gear VR の 特徴
- 端末のパワーだけでは足りない部分をヘッドセット側で補完している
- スマートフォンとmicroUSBで接続して、ヘッドセット側のジャイロセンサーを利用
- これにより、スマートフォンでも60fpsという非常に滑らかな映像体験が提供できる
- スマートフォンでも快適なVR体験を提供できる
GearVRが楽天などで購入可能になっています。
価格:14,899円
(2016/1/4 14:53時点) 感想(0件) |
「Touch」について
- VR空間内に入ることは『Rift』で可能になったが、物体を触ることができないのがk台だった
- 『Touch』はこの課題をクリアするためにデバイス
- VR空間で意のままに物体を扱うためのコントローラー
- 製品版と同じタイミングではリリースできないが夏頃にはリリースできそうである
「Medium」
- 『Rift』と『Touch』を使ったものづくりのためのプラットフォーム
- VR空間内には入り、彫刻、エアブラシ、粘土遊び、陶芸のような感覚で直感的に3DCGをモデリングできる
- これにより、気軽に試作を行うことが可能になる
- 製造業等で、試作〜レビュー〜納品がどこにいてもできるようになる
DEMO
- 「ToyBox」
- 2人でボイスチャットをしながらさまざまなおもちゃを「Touch」で取って遊べる
ビジネスモデル
- 『Rift』や『Touch』は「あらゆる体験を、どこでも、誰とでも。」というOculus社のミッションを実現するためのデバイス。つまり手段である。
- そのため、ハードウェアはできるだけ手に取ってもらいやすい価格で提供したい
ではOculusはどこで儲けるのか?
- VRのコンテンツに特化した配信プラットフォームの運営を行う
- 売り上げの一部をOculus社が受け取る
- アプリストアのモデルと同じ形。
- Oculusとdeveloperが共に潤うWin-Winの関係を作っていきたい
- よくお客さんに「Riftはゲームデバイスでしょ?」と言われらしいが「そうじゃないと」答える
- ゲームだけでなく、映画館(ビデオ)、エンタメ等も扱う
- 映画館に入り混んで映画を楽しむ「Oculus Video」
- 将来的にはライブやスポーツの中継なども計画している
Oculus まとめ
- PCのように一人一台HMDを持つ時代が来ると考えている
- 『Rift』がゲームやエンタメだけでなく、業務で使われ始めて、現在爆発的に広がっている
- HMDを一人一台持つ時代が来るということを疑問に思う人もいると思うが、PCも一人一台持つ時代が来るとは思われていなかった
- 一人一台を持つ時代を経て、今やスマホやタブレットのようなデバイスまで進化した
- Oculusは質の高いVRコンテンツを提供していくプラットフォームになりたい
- そのためにも、提供するコンテンツには快適なVR体験が求められる
- 快適なコンテンツ作りのために、VR酔いなどの問題を軽減する必要がある
- OculusのHPにある「ベストプラクティスガイド」(PDF)を読んでほしい
- ここには、これまでの経験をもとにどうすれば快適なVR体験を提供することができるかというヒントが紹介されている
3.ハコスコによるVRビジネスの可能性
藤井直敬
<理化学研究所|株式会社ハコスコ>
ハコスコとは
ハコスコはダンボールでできた簡易のHMDで、スマートフォーンを装着して使用します。

これまでに、色々なタイプのハコスコ製品が販売されています。

(引用:http://hacosco.com/product/)
ダンボール製のものが主流ですが、他にも耐久性の高いプラスチック製のものがあります。
材質を無視して大きく分けるとハコスコの製品は「1眼モデル」と「2眼モデル」の2つに分けられます。スマートフォンを使って、ハコスコをVR用簡易HMDとして利用する場合は基本的に2眼モデルが利用されます。
しかし、ハコスコの基本モデルはあくまで「1眼モデル」なんだそうです。これにはちょっとした理由があります。
SRシステム(Substitutional Reality System)
登壇者の藤井氏が、元々理化学研究所で研究していた『SR(Substitutional Reality)』というテーマがあり、この研究で利用する簡易HMDとして誕生したことが1眼であったことから、1眼モデルのハコスコが基本モデルになっているらしい。
『SR』は日本語で『代替現実』を意味します。
理化学研究所のページに書いてある説明を引用すると、
本人に気付かれずに「現実」をあらかじめ用意したものにさしかえる (substitute)ことができるこの仕組みこれが『SR(代替現実)』です。これを実現するためにHMDを利用するのですが、ハコスコはこの簡易版になります。
HMDを利用してどのように実現するかいうと、こちらも理化学研究所の説明を引用しますと
体験者が装着するヘッドマウントディスプレイ(HMD)には、目線の位置に付けたカメラからのライブ映像、およびあらかじめ同じ場所で撮影した過去映像を織り交ぜて表示します。過去映像の撮影に全方位を記録できるパノラマビデオカメラを用いることにより、体験者は過去映像の体験中も、ライブ映像の場合と同じように自由に周りを見渡すことができます。また過去映像体験中には、録音された過去音声がヘッドフォンから流れます。ようするに、カメラで撮っている映像と事前にまったく同じ場所で撮影した全天球動画を同じHMDに表示して、適当なタイミングで実際のカメラ映像と事前に撮影した動画を切り替えることで、過去と現在の境を曖昧にするということ。かな。
まあ、文字で説明されてもよく分からないと思うので、こちらの理化学研究所のページを見てもらうのが分かりやすいと思います。
当日は、SRの紹介として上記のページにある動画とは別に、東京ゲームショウで展示していたというゾンビになる動画が紹介されました。
あれは自分が体験してたら絶対に怖い。。。
ハコスコのターゲット
Oculus VR社の『Rift』は非常に素晴らしいデバイスではあるが、おそらくはハイエンド〜ミドルエンドユーザーがターゲットになることが予想される。ハコスコは圧倒的多数であるボトムエンドユーザーをターゲットとしている。

こういったボトムエンドユーザーをターゲットとしたコンテンツとして最も可能性があると考えられているのが360度動画の配信です。
株式会社ハコスコは、スマートフォンを持っている一般ユーザー向けに360度のVR動画を提供するプラットフォームとして「ハコスコストア」を運営している。
ここでは、様々な360度動画が提供されており、ハコスコを利用することで気軽にVRを体験することができる。視聴専門の一般ユーザーは無料で利用することができ、特定のチャンネルを開設するには月額利用料が必要となる。
また、ここでコンテンツを提供する側にも自分で作成したVRコンテンツを売る場所を提供しすることで、これまで趣味で作成したものを勝手に発表するしかなかった人たちに、ちょっとしたお小遣い稼ぎ程度であってもお金が稼げる場を提供していきたいという話でした。
ハコスコの成功例
以前、ハコスコを利用してアイドルグループの360度動画が視聴できるスマートフォンアプリを配信していた。一般的なミュジックビデオのように、ほとんどのユーザーが一度見たらあまり見なくなるものと考えていたらしい。こういった予想の元、1年近く経ってからアプリケーションを更新する際に新たに別のPINコードを入力しないと視聴できないようにしたところ、予想に反して非常に多くの苦情が寄せられたらしい。それから詳しく状況を調べてみると、「毎朝見て元気をもらっている」というような、コアなファンたちの間では、継続的に視聴されているということが判明したそうです。
ハコスコをメディアとして利用する
ハコスコストア以外に、ハコスコのビジネスモデルにはどういったものがあるかというところで、ハコスコにオリジナルプリントを施すことで「ハコスコをメディアとして利用する」ことが紹介された。

どういうことかというと、ハコスコに広告やキャラクター等をプリントして配布することで、プロモーションの新しい手法として利用するというものである。一番最初にこれを行ったのが「Unity」です。
ハコスコをメディアとして利用するためにオリジナルプリントを施したハコスコがこれまでに10万個も出荷されているらしい。現在も、ハコスコのホームページから見積もり、発注を行うことができる。
マルチユーザー対応
今後は、こういた VR/SR体験を複数ユーザーで同時に体験できるような環境を整備していきたいと考えているらしい。実際に、つい先日まで、ハウステンボスのイベントで『ナイトメア・ラボ』というイベントが行われていたりした。
今後こういったSRを利用したイベントやアトラクションが提供されていくことになるだろう。
講演動画
USC2015の公式ページに講演動画が上がっていたので、リンク貼っておきます。
先述のゾンビの動画も途中で見れます。6:55あたりから始まるので一度見てみると面白いと思います。